公開日 2020年12月09日
11月14日から、中津市歴史博物館と福澤記念館の2か所で企画展「福澤諭吉の書」を開催中です。手紙、原稿、漢詩など福澤先生の様々な書の展覧会、文字を通して書の背景、知られざるエピソード、先生の人間交際模様などがわかり、その場を去りがたくなるほど面白いものばかりです。
明治11年頃の渋沢栄一宛書簡。渋沢との面会を希望する慶應義塾出身者を、当時東京商法会議所会頭を務めていた渋沢に紹介しています。大隈重信にも別件で推薦しており、面倒見の良い先生です。
「黒雲吐明月(こくうんめいげつをはき)」で始まる五言絶句の漢詩。解説には「長雨のあとの晴天のように、悪いことの後には良いことが巡ってくる」とあり、コロナ禍の現在、我々への励ましともなりますが、この漢詩の背景は越前福井藩の旧藩士酒井良明の不遇を慰めるために贈ったもの。酒井は、福澤の推薦で藩主松平春嶽の孫の教育監督となったものの、藩筆頭家老の恨みを買って解任の憂き目にあいます。仲人役として中上川彦次郎(福澤の甥で実業家)の相談にのり妻合わせた女性が、家老の子息の嫁として所望されていた事情が関係したようです。
フランス人レオン・ド・ロニ宛の手紙は、現存する数少ない諭吉の英文書簡です。綴りや文法の誤りもあり、幕末での英学の難しさを示すものですが、「あの福澤先生でも間違うのだ」と思えば、英語が苦手の中高生にも学習の励みになりますね。
諭吉の書には深い教養はもちろん、先生の人間臭さがあふれ共感を覚え親しみが増します。そうそうもう一つ、明治14年の政変以来、絶交状態にあった総理大臣伊藤博文から仮装舞踏会に招待された時の返事、文面は丁重ながら、理由は家事とし、「断」るという字が笑いたいぐらいに大きく筆太で書かれています。「福澤先生、ユーモアですか。やりますね!」
展覧会は来月の1月9日まで。皆様のご来場をお待ちしています。
(市報なかつ令和2年12月15日号掲載)