何もかもがスピード時代。事が早く進むことが良しとされます。情報を早くキャッチできれば、準備ができ成功につながりやすい。昔は、人に対面し、あるいは紙に文字を書き相手に用件を伝えるのが普通で、情報伝達に何日も何月も要しました。今や文明の利器により所要時間が大きく短縮され、人々の生活を格段に便利にしています。
　特にスマートフォンなどを活用したSNS。瞬時にしかも多くの人と遠隔地でもやり取りできます。コロナ禍でオンライン会議やリモートワークも普及、便利さこの上なしです。このように今日の伝達手段は多様化、迅速化、見える化し、あたかも同じ時刻に同じ場所で会っている臨場感を味わえ、本当に効率的です。
　一方、便利さの陰で失くしたものはないでしょうか。例えば、切なる思いをしたためた直筆の恋文。書いては破り何度も書き直し、とうとう出せずじまいに終わることもあります。出せば出したで、来るとも限らない返事を首を長くして待ちます。その一見無駄に見える時の経過や間が、出し手・受け手の心情を揺さぶり、返事のあるなしにかかわらず、人の情緒の厚みや人間的な深みを生み出すことにつながっている気がします。
　現代人は、文明の発達で答えが即可能になったことに慣れ、間を置かずにYESやNOの答えが出ないと満足できなくなったように感じます。しかし、世の中や人の心には襞のようなものがあるのでしょう。あちこち行ったり来たりしながら、時に立ち止まり考えてゆっくり進んだ方が良い結果や感動を得られることもあります。急ぐ気持ちを抑えながら、腰を据えて事に当たることも必要なのかもしれません。
　この歳になると「遠回りして学ぶことも尊し」と感じる今日この頃です。とは言っても「行政サービスは迅速に！」は忘れませんから。

（市報なかつ令和3年6月15日号掲載）