公開日 2022年08月08日
子どもも大人も興味深く観賞する蛍。闇に放つ光が人に情緒的な思いと生物への科学的関心の両方を抱かせます。
蛍は、俳句、短歌、小説などの文学や音楽によく登場します。卒業式の定番「蛍の光」。中国の故事「蛍雪の功」に由来、蛍の灯りで勉強するという苦学奨励歌です。原曲はスコットランド民謡、詩人ロバート・バーンズの作詞で「旧友と昔の思い出話をしつつ酒を酌み交わす」再会を喜ぶ歌、しんみりとした別れの歌ではありません。
日本では、蛍は、昔から、やがて移ろい消えゆくはかなさを表すことが多い。蛍火は、恋心や人の魂になぞらえられます。源氏物語には「蛍の巻」があり、和歌でも切なく歌われます。「鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす」は都々逸の名調子。桑田佳祐歌う「蛍」は、大切な人を亡くした心情が平和への祈りとなります。
一方、中津では、蛍の飼育・保護活動が盛んです。恩師でもある蛍研究家、92歳の宮本清人先生にお聞きした話です。「高校の蛍クラブの生徒と、夜、生息場所に通い、卵、幼虫、さなぎ、成虫への成長過程を観察。蛍の生態と飼育法を学び、大人や子どもの蛍教室を各所で開いた。生物に関心の深かった昭和天皇がご来県時、ご進講役を務め、季節外れの秋に育成した光る蛍をお見せできたのが一番の思い出」と振り返ります。さらに「西日本の源氏蛍は2秒に1回、東日本は4秒に1回発光する不思議」を教えてくれました。今、中津南高耶馬溪校の皆さんは、蛍を飼育し小学生に授業で教えています。また、市の終末処理場では、下水を処理した水で蛍を育て、その浄化を確認しています。
かように蛍話題は尽きません。結びに一つ、わらべ歌は「ほ ほ ほたるこい、あっちの水は苦いぞ こっちの水は甘いぞ」と呼びこみ作戦。蛍は味がわかるのでしょうか。
(市報なかつ令和4年8月15日号掲載)