公開日 2026年01月21日
昨年は戦後80年、昭和100年という節目の年で昭和史の議論が盛んでした。昭和11年の二・二六事件に遭遇した故渡辺和子さんの著書を読み、かつて出演されたNHKEテレの番組を改めて拝見しました。
最愛の父、陸軍教育総監渡辺錠太郎さんが反乱部隊により自宅で殺害されます。当時9歳の渡辺さんにとって、父親の殺戮場面の一部始終を同じ部屋で目にするというあまりに酷な体験でした。その後、経済的に家族を支えながら、洗礼をうけ、修道院入り。アメリカに渡り、36歳の若さで岡山のノートルダム清心女子大学の学長に就任、教育者として一生を貫きました。
存命中の著書多数、「置かれた場所で咲きなさい」はベストセラー、数々の講演もされました。驚くことに、渡辺さんは二・二六事件を起こした兵士たちの五十回忌の法要に出席します。そこで父親にとどめの銃剣を刺した2人の青年将校の遺族(実弟)に初めて会います。父の仇を心から許していないかもしれないと自問する渡辺さんに、涙を流しながら自分達の兄が犯人の将校であると伝え、錠太郎さんのお墓にお参りしていないと詫びる遺族、双方の気持ちは想像するだけでもつらすぎます。渡辺さんは遺族が背負ってきた戦中・戦後の苦悩を思い、恩讐を超えわだかまりは消えたと言います。その後両者は交流を始め、それぞれが平和の大切さ、美しい生き方を考える年月を過ごしていくのです。
渡辺さんはマザーテレサと何度も会い、来日時は通訳も務め自らの大学構内に泊めます。持病に悩まされながら、人格論をテーマに生涯教壇に立ち続け信仰と教育に身を捧げました。「小さなこと一つ一つに愛をこめる」、「毎日を私の一番若い日として生きる」など数々の言葉は強さに裏打ちされた優しさに包まれています。くじけそうな時、渡辺さんの著書を開きます。
(市報なかつ令和8年2月号掲載)




